〇現地調査の定義
現地調査では、建物が直面する構造的な欠陥、劣化の程度、緊急の修繕が必要な箇所の特定などを行います。
これによって、建物の安全性、機能性、美観性の維持・改善するための必要な情報が得られます。
建物の寿命を延ばし、居住者の安全と快適性を保証するために不可欠なプロセスになります。
〇現地調査の範囲
現地調査の範囲は、構造そのものから外壁、屋根、基礎、内装、設備に至るまで多岐にわたります。
具体的には、建物の耐震性、断熱性、防水性などの評価、設備の効率性や、
建築基準法などの規制遵守状況の確認がされることが多いです。
〇現地調査の方法
診断方法は、目視による調査から、赤外線を用いた外壁の劣化調査、超音波を使用した構造体の亀裂調査などがあります。
〇現地調査の重要性
現地調査の結果に基づき、修繕計画や予算の策定、長期的な建物の保全戦略が立てられます。
また、建物の価値を保つためにも重要であり、不動産の売買や賃貸の際にも有効な情報を提供します。
2.大規模修繕に欠かせない現地調査の目的
〇建物の劣化や損傷をチェック
現地調査の最も基本的な目的の一つは、建物の劣化や損傷の状況を正確に把握することです。
年月の経過とともに、建物のさまざまな部分に劣化や損傷が生じ、
構造のひび割れ、外壁の剥離や色褪せ、屋根の破損、防水層の劣化、配管や電気設備の不具合などが生じます。
:
【例】劣化チェックポイント
*屋上 … 屋根の上こと。 マンションやビルなどの建物の最上部で平面になっている部分のこと。
・防水層(シート)の膨れ・破損がある
・コンクリートのひび割れがある
・コンクリートの爆裂ある
・鉄部にサビがある
・排水口の破損、詰まりがある
*塔屋 … マンションやビルなどの屋上から突き出した部分のこと。
・防水層に劣化がある
・コンクリートのひび割れがある
・鉄部にサビがある
・排水口の破損、詰まりがある
*共用部(廊下、階段など)… 居住者や賃貸人が共同で使用する部分のこと。専有部分に属しない建物の部分のこと。
・天井面の塗膜の浮き・剥がれがある
・防滑塩ビシートの剥がれがある
・鉄部にサビがある
・手摺り・壁にひび割れがある
・排水口の破損、詰まりがある
*鉄部塗装
・サビがある
・塗膜が浮いている
・腐食・破損がある
これらの問題は、見た目の問題だけでなく、建物の安全性や機能性にも大きな影響を及ぼすリスクがあります。
建物の劣化や損傷は、放置すると、修理費用が高額になるだけでなく、住居者の安全にも影響を及ぼす恐れがあります。
早期にこれらの問題を特定し、適切な修繕を行うことは、長期的なコスト削減と安全の確保につながります。
〇必要な修繕や時期を判断する
現地調査では、建物の構造的な安全性、機能性の維持、美観性を考慮しながら、必要な修繕項目を特定、
それをいつ行うべきかを決定します。
:
【例】
屋根の破損、外壁のひび割れ、雨漏り、断熱材の劣化、電気設備の老朽化など
⇨ 建物の寿命を短縮するだけでなく、居住者の快適性や安全性にも影響を与えてしまうため、適切な修繕計画が必須となる。
:
調査の結果に基づき、緊急性の高い問題と長期的なメンテナンス計画の中で対応すべき問題を区別することができます。
:
【例】
構造的な安全性に関わる問題 ⇨ 即座に対応が必要
美観に関わる問題 ⇨ 予算や計画に基づいて段階的に対処できる
:
〇長期修繕計画を見直す
長期修繕計画の存在は、建物の価値を維持し、所有者や居住者にとって予測可能なメンテナンススケジュールを
確立することに役立ちます。
定期的な現地調査は、長期修繕計画の有効性を評価したり、計画に含まれる特定の修繕作業の優先順位を再評価するのに必要になります。
:
【例】
新たに発見された劣化や損傷を発見 ⇨ それらを計画に組み込み、既存のスケジュールを調整する必要があります。
:
3.現地調査の流れ
〇現地調査の依頼
現地調査は、専門知識を持ったプロフェッショナルに診断を依頼、相談を行うことが大切です。
建物診断を行う専門家には、建設業者、物件管理会社、第三者機関のコンサルタント会社が存在します。
依頼先の専門業者は、建物診断の質だけでなく、後の大規模修繕工事の方針にも関わるため、
建物のニーズと修繕計画の目的に適合することが重要です。
〇図面などの確認
現地調査では、建物の設計図面、既存の建物情報、および以前の修繕履歴などが精査され、建物診断の計画を立てる上での基盤となり、
診断作業の方向性と範囲を決定します。
・建物の設計図面 ⇨ 建物の基本的なレイアウト、構造体の詳細、設備配置を見ることで、
構造的な特徴や設計上の意図を理解するのに活用されます。
・過去の修繕履歴を確認 ⇨ 建物の現状を把握する上で重要です。
・これまでに実施された修繕の種類、時期、範囲などの詳細を調べる ⇨ 建物の劣化や損傷の傾向、その進行状況を推測することができます。
〇アンケートの実施
アンケート調査は、居住者の視点から直接的なフィードバックを収集する手段になります。
調査を行うことによって、建物の日常的な使用に関連する問題点や意見を収集し、劣化のサインや問題を把握します。
:
【例】アンケートの内容
・各部屋の不具合に関する質問 ⇨ 漏水、結露、換気など
・建具の不具合に関する質問 ⇨ 玄関ドア、窓サッシのガタツキやサビなど
・バルコニーの不具合に関する質問 ⇨ 漏水、ひび割れ、塗装の剥がれなど
・設備関係の不具合に関する質問 ⇨ 電気設備、給排水設備、ガス(給湯)設備などの不具合
:
〇目視調査・触診調査・打診調査・赤外線外壁劣化など
目視、触診、打診調査は、専門家が物理的に現場を訪れて行われる手法です。
共用部分である外壁、廊下、屋上などが重点的に調査され、建物の表面的な劣化や損傷の程度を確認します。
・目視、触診 ⇨ 表面の状態を感じ取る
・打診調査 ⇨ 打診棒という器具を用いて壁面を叩き、音の変化から内部の状態を推測します。
タイル面や塗装モルタル面のような場所で効果的です。
・赤外線外壁劣化調査 ⇨ 建物の壁面に赤外線サーモグラフィーカメラを使用する手法です。
壁面の温度分布を捉え、異常な温度変化を示す箇所を特定することで、劣化や損傷の存在を教えます。
〇調査報告
現地調査終了後、収集されたデータと分析結果を総合して現地調査報告書が作成されます。
この報告書は、劣化の程度を分類し、具体的な劣化の状況や位置を示す写真なども含まれ、
建物の各部位における劣化の状況を綿密に記録し、評価しています。
調査報告は、単に現状を伝えるだけでなく、マンションや建物の将来的なメンテナンス計画や修繕の方針を
決定する上で重要となります。
正確な情報に基づいて計画が立てられることで、効果的な修繕が実施可能となり、長期的に建物の価値を維持することができます。